予想できない社会への心づもり

強い日差しが照りつけ、どこへ行くにも日傘が手放せない季節がやってきました。皆さま、お変わりありませんか。安部元首相が銃撃を受けた事件は、政界だけでなく、私たちの感情面への影響も少なくないのではないでしょうか。新型コロナウイルス感染症やウクライナ情勢など、ここ数年、私たちを取り巻く環境は想定外の連続ともいえます。可視化できる変化に伴い、気付いていない、知られていない変化があり、足を踏み込んだ瞬間に初めて「こんなこともあったのか」と途方に暮れる状況も出てきています。

新型コロナウイルス感染症の影響か、医療現場では、予定されていた手術が先送りになってしまったり、受診を控える人が多くなってしまったことで、今後は、進行した癌が見つかるケースや死亡率の増加が懸念されています。従来より、高齢者の方の入院については、「なぜここにいるのか」「安静にする必要性」が理解できず、認知症の悪化が課題となっていました。コロナ禍で、入院された患者さんへの面会が禁止となったことにより、これまで以上に認知症の深刻な悪化が問題になっています。2020年5月の認知症学会専門医を対象としたアンケートでも、多くの専門医が「症状悪化が認められた」と回答していますが、2年経った今でも、施設の大きな制限などから、そうした患者さんの治療を中止するケースや、症状悪化の深刻なケースの増加は「懸念点」として置き去りになっているとされています。

こうした中でも、病院によっては、看護部がオンラインや電話での面会といった工夫をしたり、ご家族からの手紙を読み上げて安心させるといった、かかわり面での「より寄り添う看護」をしています。一方で、患者さんに一番身近な看護師さんにとっては、患者さんの認知症が悪化する様子を目の当たりにすることや、ご家族からの「以前の母に戻して」といった叱責、それらに対して何もできないもどかしさといったストレスを感じることも多いのではないでしょうか。

そうしたなかでも「厳しい状況の中でも看護師どうしで励まし合い、チームで危機を乗り越えたい」と考え、「”小さな光”を集めながら看護の力につなげている」と話す看護師長さんの記事がありました。もしかしたら、M-GTAの本当の力を発揮するのは、今の、この、変化の大きい、予想できないVUCA時代なのではないでしょうか。前段のような看護師さんたちの様々な工夫や、その想いを理論化していくことは、きっと多くの、支援に悩んでいる看護師さんや、そのサービスを受ける患者さん、そのご家族にとって、大きな光になっていくに違いないです。その一翼を担えるような研究をしていきたいです。そのためにも、自己流ではなく、信頼性の高い理論を生成していく必要を感じています。

今月も、SIM研修会を開催します。詳細は、「研修会・イベント」のページをご覧ください。(文:山本)

入院長期化 患者の“孤独”寄り添う看護師 ケアの現場は、NHKニュース、2020-12-23. https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201223/k10012780631000.html(参照2022-7-10)